液膜の蒸発/凝縮解析は、熱力学的な設定が適切に選択されていないと、発散や浮動小数点例外エラーが発生しやすくなります。この記事は、問題を引き起こす可能性のある設定を特定し、解決することを目的としています。
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液膜モデルは、シェル領域を使用します。シェルは境界から定義されるため、境界メッシュの品質が液膜の収束性を良くするための重要因子になります。
形状が複雑で、品質の悪い境界セルが避けられない場合、流体領域の「無効なセルを削除する」機能を使用して対処することができます。この機能によって、品質の悪いボリュームセルに隣接するシェルセルも自動的に削除されます。
また、液膜の蒸発/凝縮を考える場合、熱伝達は常に重要であり、流体-固体の熱連成(CHT)もよく考慮されます。CHT解析におけるメッシュのベストプラクティスでは、熱流束(および物質移動)を精度よく計算するため、y+の小さいメッシュが推奨されます。一方、計算時間を重視する場合、特に長時間のシミュレーション(数分、数時間)では、y+の大きいメッシュを使用したほうが良いです。収束性が向上しセル数も減少するため、妥当な結果を維持しながら実行時間を短縮することができます。
液膜モデル及び設定
下図のように液膜モデルを選択します。
蒸発・凝縮を計算するため、多成分気体を使用する必要があります。ここでは空気とH2Oが選択されていますが、状況に応じて変更可能です。また、液膜はH2O(Water)を含む多成分液体を使用する必要があります。
✔ 安定化膜厚方程式を有効にします。
✔ 液膜の最大厚さを適切な値に設定します。
混相の相互作用モデル及び設定
✔ 蒸発/凝縮の不足緩和係数(URF) = 0.01 ~ 0.25に設定します(0.15)。
● 核形成密度を 1e9~1e12 /m2 に設定します。
● 熱限界を有効にします。
● 蒸発または凝縮を無効にすると解析をさらに安定させることができますが、物理現象の忠実度を低下させてしまうため、無効化は必要ありません。
ソルバーの設定
✔ 分離型エネルギー(流体)の不足緩和係数を0.98~1の間に設定します。
✔ 分離型エネルギー(固体)の不足緩和係数を0.99999に設定します。
✔ 分離型化学種の不足緩和係数を分離型エネルギ(流体)と同じ値に設定します。
物性値
✔ 生成熱
✔ 液膜/多成分液体中のH2O(液体成分)飽和圧力を Antoine または Wagner 方程式に設定します。
エッジ出口
✔ 1つ以上のシェルエッジを「出口」に設定します。
入口はたは開放(圧力出口)境界における湿り空気条件
湿り空気条件に関して、環境の相対湿度で定義したい場合がよくあります。通常手作業で相対湿度から水蒸気の質量分率またはモル分率を算出して、設定する必要があります。
ウェット/ドライ壁面境界
用途によっては、壁面が常にウェットまたはドライ状態とみなされる場合があります。このような場合、膜厚を無視します。
ウェット壁面または水面のモデリング
ウェット壁面は、水たまりや自由水面を模擬するものです。壁面が乾燥しないため、膜厚を追跡する必要はありません。
凝縮またはドライ壁面境界
除湿用の冷却壁の多くは、液膜が排出されるように設計されています。壁面はほとんど乾燥状態か、水滴だけ壁面に残る状態になります。壁が常に露点以下に冷却される場合は、膜厚を考慮する必要がありません。
過渡シミュレーションでは、各時間ステップで収束をチェックする必要があります。
液膜上の関数(温度、相対湿度、蒸発率など)モニターが漸近的に一定値に収束するはずです。図に示す例では、0.6秒時点で蒸発率がまだ変化途中ですが、1秒になると、完全に一定値に漸近していることが分かります。
上記多くの設定が時間ステップ内の収束に影響を与えます。最も重要なものを以下に挙げます。
良い妥協点が見つかるまで、いろいろ試してみてください。
蒸発と凝縮が発生する主な原因は空気の相対湿度であります。相対湿度が100%以上では凝縮が発生します。
Simcenter STAR-CCM+の液膜モデルには、「湿り空気」という物質がないため、残念ながら相対湿度という関数が用意されていません。表示したい場合、ユーザーフィールド関数を作成する必要があります。
添付のJavaマクロは水蒸気分圧および相対湿度のフィールド関数を作成します。また、Antoine係数はグローバルパラメータを使用して設定されるので、異なる材料にも簡単に適用できます。
無次元の単位%も作成します。任意の値/関数に対して%表示できます。例えば、水蒸気の質量分率を0.01から1%に変換して表示できます。
既に説明されたように、このJavaマクロは境界条件で使用される'Env RH Mole Fraction Water'というパラメータも設定します。
このドキュメントで説明されている設定では、時間ステップサイズを0.2~2秒の間に設定し、安定した計算を実施可能です。
しかし、熱境界条件が変更したり、また解析の初期段階では、蒸発速度が大きく変化するため、より小さな時間ステップサイズが必要になります。